発達障害就労日誌

色々あるけどまぁ生きていこうじゃないかというブログです。

雑談の技術について、キャッチボールが楽しめない僕らのためのお話①

雑談が苦手だ

そういう人は多いと思います。ADHD傾向の人あるいはASD傾向の人にはそれぞれの苦手さがあるでしょう。僕はADHD傾向の「衝動的に喋ってしまう、喋りだしたら止まらない」といかにもASD的な「理屈重視、感情・共感の軽視」の両方を併せ持っておりまして、「雑談」にずっと苦労してきました。というのも、ツイッターの僕を見ていると容易にわかると思うのですが、僕が気持ちよく喋っていると気づいたら「独演会」になってるんですよね・・・。もちろん「独演会」をやった結果、その場にいた皆さんが「いい話を聞けた」と認識してくれれば問題はないんですが、実際のところそう上手くもいかないのが現実でして。しかも、相手の感情への共感性も薄いので、まぁあまり良い結果にはならないことが多かったです。

ADHD傾向の強い方、特に多動性と衝動性の前に出ているタイプの人にありがちなことですが「喋りだしたら止まらない」これは本当に厄介です。結構いますよね、こういうタイプ。独演会をやってるか、あるいは会話からはぐれて靴の先を眺めて時間を潰しているかどちらかしかない、そういう人生を送ってきた人は結構多いのではないでしょうか。僕自身もこの典型例だと思います。

そういうわけで、人生のある時期まで僕の友人は、僕のこの性向を気に入ってくれる人たちだけでした。あるいは僕の止まらない喋りに割り込んで会話の主導権を奪い取りに来るような「強い」コミュニケーションを好む人たちです。そういう人間たちが集まるコミュニケーションの場があったのはとても幸福なことでしたが、社会に出たらもちろんそうは行きません。

このエンドレスに口から流れ出す言葉を制御できるようになったのは、実はそう古いお話ではなくて、二十代も半ばに入ってからです。というのも、会社を経営するようになると様々な人とコミュニケーションをとるのが仕事になってしまいまして、「雑談」というものから逃げられなくなりました。しかもその相手は往々にして自分より遥かにキャリアも実績も上の他社の経営者、あるいは担当者ということになります。なんとかせなあかん、が発生したわけです。

 

社長になったら雑談地獄だった

これは、会社を経営して本当に痛感したのですが、商売というのは「買うほうが偉い、金を払うほうが偉い」という世界観ではありません。海のものとも山のものとも知れない、20代の創業社長と好き好んで取引したい人はそれほどいないのです。アポが取れてさぁ打ち合わせ、という段になったら限られた時間のうちに「私はそれなりにきちんと会話が出来て、信用に足る人間です、お金もちゃんと払えます、あなたの商品を売ってください」というアピールをしなければなりません。ここで失点するとあからさまに対応が雑になったり、あるいは連絡が返って来なくなったりします。お値段も高くなりかねません。コミュニケーションコストの高い相手と取引するのは面倒なのです。

また、売るときは更にシビアです。これは「営業」という概念ですので特に言うまでもないことですよね。商品説明をして、お客さんが気に入ったら買ってくれる。「営業」がそういう牧歌的なものではないことは皆さんご存知だと思います。営業をする時にもやはり「雑談」はどうしても必要になります、いやもしかしたら「俺は商品説明と売り込み以外一切喋らない、個人的な話は一切しない」みたいなスタイルでめっちゃ売ってる営業マンとかも存在するかもしれませんけど、それでも基本的には「雑談力」が求められるのは間違いないと思います。

そういうわけで、社長をやっていた数年間は本当に色々な人と喋りました。取引先各社、そして縁の出来た各社の経営者や担当者、仕事をお願いする業者、商品を売り込みに行く販売先・・・まさに雑談地獄です。また、人間というのはイベントごとが好きなので(僕は嫌いですが・・・)飲み会やらパーティーやらもわりとあります。そういった場の雑談とは「お互いの値踏みしあい」です。好感が持てるか、あるいは持てないか、話が通じるか通じないか、金はどの程度持っているか、どの程度の能力があるか・・・そういうことを会話の端々から探り合うのです。

「こりゃコミュニケーションの方法論を抜本的に変えないと死んでしまうぞ」と心から思いました。努力もしました。苦節の数年を経て、現在は僕も多少雑談能力がマシになったと思います。何せ、経営上のお話って衝動的に語ると情報漏洩とか起こしかねないですし。そういうわけで、その体験から身に着けた技術論のお話を今日はさせていただこうと思います。

 

キャッチボールが楽しめないみなさんと雑談レベル1

ところで、みなさんは父親とキャッチボールをしたことがありますか?僕はありません。僕の父親は子供と遊ぶタイプではなかったので、何かをして遊んで貰った経験というものがほとんどないです。だから、僕は未だにキャッチボールが出来ません、あんなカタいボール投げ合うの怖くないですか。そもそも、あれ楽しいんですか?ボールを投げて、キャッチする。ボールを投げて、キャッチする。どこに面白みがあるのか未だにわからない。

しかし、雑談の最も基礎となる部分はこういうところだと思います。僕があなたに向かってボールを投げる、あなたはそのボールを受け取って投げ返す。ここまで出来れば、とりあえずキャッチボール合格です。コミュニケーション可能な人間であることが確認できました、ということになります。内容は別に何だっていいんですね。例えばこんな感じです。

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A「おはようございます」

B「おはようございます」

A「いやぁ、いい天気ですね(話題の提示)」

B「本当ですね(同意)、今年はカラ梅雨になるんですかねぇ(話題の提起)」

A「雨が降らないのはありがたいけど(同意)、あんまり降らないとそれはそれでねぇ(話題の提起)」

B「水不足は色々大変ですからね(同意)」

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こんな感じです。この会話の内容自体に有用な情報はほとんどないと思いますが、それでもこの会話が初対面の二人の間に成されたものだとすると、かなり重大なやり取りが行われていると言えます。

Aが発話したのに合わせて、Bはまず同意を示しています。その上で連想される話題を提起して、「Aと会話したい」という意思を示しています。それに対してAは「雨が降らないのはありがたいけど」という形でBへの同意と話題を引き継いだことを提示した上で、「あんまり降らないとそれはそれでねぇ」で更に話題の提起を行っています。それに対してBは再度同意を示しています。会話のキャッチボールが成立していますね。

例えば、お隣さんとこの会話をしたら「マトモそうな人だな」という印象を持つでしょう。挨拶をすれば挨拶を返してくれる上に基本的な話は大体通じる人だ。不快な物言いもしない。次回道ですれ違ったらまたちょっと話しかけてみようかな?と思えるかもしれない。このようにして人間同士の基本的な相互承認が発生するわけです。逆に

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A「おはようございます」

B「・・・おはようございます(小声でうつむきながら)」

A「いやぁ、いい天気ですね(話題の提起)」

B「暑いです(不同意)」

A「暑くなりましたねぇ(同意)、雨も降りませんし(話題の提起)」

B「そうですね(同意)」

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これはちょっと難しい雰囲気かな、という例だと思います。先ほどの例と比較するとわかると思いますが、ボールを投げているのはAのみですね。Bは全くボールを投げ返していない。もちろん「BはAと会話したくなかった」ならこれでいいと思います。皆さんが「事を荒立てたくはないけれど、仲良くする気は一切無い」みたいな相手にする対応って大体こんなもんだと思います。しかし、「BはAと仲良くしたいと思っていた」ならやはり多少問題が発生します。

また、「いい天気ですね」にいきなり「暑いです」を返すのは、同意というより不同意に近く、あまり感じのいい応対とは言いにくいでしょう。その上、話題の提起が帰ってこなかったので、Aは「暑い」という話題を引っ張って無理やり話題の提起として扱うしかなかった。ボールが返ってこないと、こういった形で無理やり会話を繋ぐ必要が発生してしまいます。これは結構やる側としてはしんどい。立ち去れないタイプの雑談でこれをやられると結構苦労しますよね。では、少しマシな例を。

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A「いやぁ、いい天気ですね」

B「暑いです。(不同意)夏は苦手で・・・(話題の提起と不同意の理由説明)」

A「暑くなりましたねぇ(同意)、今日はまだ気温上がりそうですね(話題の提起)」

B「そうですね(同意)、汗だくです」

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これだとだいぶ感じがいいですよね。「ああ、暑いの苦手なんだな」という感じで理解が発生すると思います。同意と話題の提起のテンプレートをこなしているだけで、この程度の距離感の雑談なんてのは凌げてしまうわけです。だから、おっさんは「いい天気ですねぇ」とか「雨は嫌ですねぇ」みたいな話をしてくるわけですよ。

またこの程度の深さの雑談において「不同意」はあまり良い結果にならないことが多いです。「いい天気ですね」とポジティブな口調で言われた時に「暑いです」というネガティブな切り返しをするのは、最後の例のように理由説明を伴わない限りちょっと感じが悪くなると思います。基本的には「雑談」は共感的であるに越したことはありません。共感的に振舞うのが苦手な皆さんはこういうところから、「とりあえず同意する」クセをつけておくのを推奨します。「いい天気ですね」と言われた時に「良い天気ではない」と思ったとしても、とりあえず「そうですねぇ」から入るに越したことはないんです。

雑談レベル1まとめです。同意→連想される話題の提起、のループだけ頭に入れておけば大丈夫というお話です。あとは元気に挨拶しましょう、なるべく否定はしないようにしましょう。これでとりあえず、他者と「あの人はちゃんと話が出来る人だ」という相互承認を形成できる筈です。この程度の雑談は、要するに「テンプレをちゃんとやれるか」の確認作業に過ぎません。ボールを投げたらちゃんと受け取って投げ返してくれた、ラリーも数回問題なく続いた。これだけで、人はそれなりに人を信用するものなのです。

 

「くだらねぇ」と言いたい気持ちはわかる

「で、これ何が楽しいの?」という気持ちはわかります。僕も正直言ってくだらないと思います。でも、これが出来ない人間が信用されるのって本当に難しいんですよ。繰り返しますが、この程度の距離の雑談なんてのは基本的にテンプレの繰り返しです。難しいことは何一つありません。快活に挨拶して、相手が提起した話題に共感を示す、あるいは同意して、連想される話題を提起して返す、それだけの作業です。(そして、適宜のタイミングで話題の提起を止めて同意で話を切る。この間合いだと3ターンもやれば十分です)

でも、「これが可能である」ということを示しておくだけで、様々なことが楽になります。具体的に言うと、隣人トラブルなども起こりにくくなるでしょう。

僕の経験上ですが、隣人トラブルを無限に起こす皆さんはこの雑談レベル1が出来ない人が圧倒的に多いです。「あいつは感じが悪い」という印象をひっくり返すのはそう簡単なことではありません。とにかく「感じのいい人」として認識されていて損なことはそれほどないですから、このレベル1だけは確実にこなすことを心から推奨します。それだけで、人間が1段階やさしくしてくれるはずです。

正直に言いますと、僕は人生において長らくこのキャッチボールが大変苦手でした。なんでそんな内容の無い会話をしなければならないんだと思っていましたし、愛想を振りまくなんてのも得意ではなかったです。ボールを投げた、受け取った、投げ返した。これだけが成立すればいいタイミングで、いきなり剛速球投げるタイプの人間でした。しかし、明確にそれは損をするんですね・・・。「あいつは会話の儀式的なキャッチボールが出来ない」と認識されると、人間は恐ろしく冷淡になります。「話せない奴」に対して、人間は本当に厳しい。

型を覚えれば出来ることですので、機械的にやっちゃいましょう。出来れば笑顔も添えておくとなおよし。今日はレベル1なので基本的なお話ばかりになりましたが、正直言って僕がこのレベル1を習得したのは20代です。「もしかして俺ちょっと怪しいかな?」と思った人は、是非一度テンプレの見直しをして、相手の投げた球をしっかり受け止め、受け取りやすい球を返す。それを心がけて欲しいと思います。雑談というのはつまるところ相互承認のための儀式に過ぎません。テンプレ通り機械的にこなして、「感じのいい話せる人」という評価を勝ち取りましょう。

久々に続きものになって恐縮ですが、よろしくお願いします。次回はもう少し難度の高い話をやっていきましょう。