発達障害就労日誌

色々あるけどまぁ生きていこうじゃないかというブログです。

【告知あり】中長期的に合理的な行動が一切できない人の話

まずいつも通り告知です

new.akind.center

ニューアキンドセンター様で書かせていただきました。

これはね、こうあえて感情を出さないように書いたんですが、心が痛い話です。まぁ、お金というものは、よくわからない理由で消滅するものなんです。人間が集まって、みんなでお金使う以上、これはもうある程度しょうがない。もちろん、しょうがないで済む話でもないんですけれど、「起きる」と思っておいた方が本当に気が楽です。是非皆さんもご一読いただいて、人間があつまる場所におけるお金について、色々考えてみてほしいと思います。

クズ氏の話をします

さて、本日は「合理的に損得を考えて、中長期的に行動できる人は選ばれしエリートだ」というお話をします。皆さんは選ばれしエリートですか?

昔こんなことがありました。あるところに、たくさんの人から3万円、5万円とお金を借りまくる人、たまにいますよね。そういう人がいました。もちろん僕もたいした額ではないですが、お金を貸していて、返せと言ってものらりくらいと逃げられるので腹が立ってきました。

そんなわけで、僕は彼(彼にクズ氏としましょう)にお金を貸してる皆さん10人ほどを集めて、みんなでクズ氏にお金を返せと説教をする会を開催しました。これだけの人数に囲まれると、クズ氏も最早何も言えません。「今はぜんぜんお金がないけれど、少しずつ返していく」そういう話になりました。

そこで、僕は皆さんの貸した金額を一本化して借用書を作り、クズ君の収入を勘案しながら返済スケジュールを組みました。なにせ、金額は一本化してもたいしたことはありません。いいところ50万ところでした。月々3万、17回払い。そういう形で話は落ち着き、毎月クズ君が僕の口座にお金を振り込む、振り込まれたお金は便宜的に僕が預かり、一定の額になったところで債権者の皆さんに配分することになりました。

もちろん、それだけで済ますわけにはいかないので、支出と収入の根本的なバランスが狂っている可能性も検討してみました。家賃2万5千円、光熱水道費1万円、携帯電話4万円・・・、おうケータイのプラン替えるぞアホか、程度の話はありましたが、収入も手取りで20万以上あり、そうそう生活が崩れるというレベルでもありません。やはり、生活を圧縮しているのはギャンブルであろう、あるいは「お酒を飲んでしまう」が女の子のいるお店なのかもれません。しかしとにかく、基本的な収支バランスに大きな問題はなさそうです。典型的な浪費による借金のようです。

さて、この会はとても感動的なエピソードになりました。最初みんなが責め立てるうちに、クズ氏は「仕事がつらくて、ついお酒を飲んでしまう」とか「ストレス解消がパチンコくらいしかない」みたいなクズエピソードを語り始めました。

しかし、当時の僕らは二十歳そこそこ。田舎の粗暴なボーイズアンドガールズです。わかるといえばわかるのです。みんな賭け事もお酒も大好きです。この程度の話は「じゃあパチンコやめような」「酒は俺らと飲み行こうぜ、返済終わるまで奢ってやるよ」などの優しい言葉が出てきます。クズ氏はさっきまでガンガン怒られていたところから一点やさしくされ、感動の涙を流しました。「人生やりなおす」とか「頑張ってちゃんと返す」とか「みんな本当にありがとう、みんながこうやって集まってくれて本当に感謝してる」などの言葉が乱舞しました。

そこで最後に「他の借金はないのか」という話が出ました。そこで、金持ちB氏が言います。「利子がつく借金が他にあるなら、これとは別に俺が一本化してやるぞ、無利子で構わん」B氏は儲かっている家業を継いだ純正ボンボンで、「困った時のB金融」と呼ばれていました。(ただし、基本的には粗暴ボーイなので取立ても厳しい)

「もう借金はありません!信じてください!」清らかな涙を流しながらクズ氏は言いました。そして、みんな「それはよかった」と思いました。そして我々は肩を抱き合って、「頑張ろうぜ」みたいな話をしながらお酒を飲みに行きました。クズ氏はとても嬉しそうでした。「本当によかった、みんながいてくれなかったら人生どうなったかわからない。ありがとう」みたいな言葉で、みんなのテンションも急上昇。青春映画のワンシーンみたいな友情が確認されました。

 泣いて謝罪して許してもらう、あるいは泣いて謝罪する人間に許しを与える。これはどちらもとても気持ちのいいことです。僕たちはみんなでとても気持ちよくなっていたのでしょう。逆集団ヒステリーですね、集団ラブアンドピースです。人生にこういうことがたまにあると気分がよくなりますね。

クズ氏、再び金を借りようとする

 一週間とたたないうちに、「クズ氏から金を無心されたけど、あれ大丈夫なの?」とう情報が僕に入ってきました。僕とB氏は基本的にクズ氏を信用していなかったので、網を張っていたのです。一瞬で引っかかりました。数人が車に乗り込み、クズ氏の自宅を襲撃しました。クズ氏は不在でしたが、郵便受けからはさまざまな郵便物が溢れ出していました。

B氏はその一つをつまみ「サラ金だこれ」と言いました。僕も適当な一枚を見てみましたが、確かに消費者金融の請求書で、しかも「払ってね」ではなく「払わないとブチ殺すぞオラ」に近いニュアンスまで育ったものでした。あいつ「他に借金はない」と言ってたよな、と数人で顔を見合わせましたが確かに請求書が届いているのだから疑いはありません。あの野郎、サラ金摘んでやがった。

「近くのパチ屋見に行ってみるか、まさかいないと思うけど」そういうわけで僕らは近隣のパチンコ屋を覗きにいってみました。想像されるとおりです。クズ氏はちゃんとそこにいました。エヴァンゲリオン打ってました。

「おい、おまえパチンコ止めるつってたよな」

「家、郵便物はみ出してたからちょっと見せてもらったけど、おまえサラ金つまんでるな?」

クズ氏はだんまりモードに突入しました。埒が開かないと判断した僕らは最終手段に出ました。クズ氏を彼の実家に連れていき、あわよくば親御さんから返済してもらう。あるいは、親御さんが返済を拒否したとしても、「おたくの息子はやばいことになっている。友人として最低限のことはしたからな」という形で彼を引き渡そうと思ったのです。クズ氏は「実家は勘弁してくれ」「親に借金をバレたくない」「頼む、ちゃんと返すから」などといい、隙を見ては車からの逃走を試みましたが、我々も粗暴ボーイズです。人間を逃がさないのは得意です。

アパート引き払って実家に帰るのがいいんじゃないの、みたいな気持ちもありました。クズ氏の親御さんは裕福ではありませんが、話は通じる人でしたので。僕とクズ氏は幼少期からの付き合いで、僕はクズ氏の実家に遊びに行ったことが何度もあります。

クズ氏の実家では、激怒した債権者が待っていました。クズ氏、実家のキャッシュカードを盗み出して、親御さんの預金を引っこ抜くという大技を繰り出していたのですね。「警察に被害届を出したところだった、捕まえてくれて良かった」

しかも、クズ氏お金を盗まれた両親に職場にカチ込まれ、もともと上手くいっていなかった仕事に通えなくなり、辞職していたそうなんですね。収入がゼロになっていました。しかも、職探しさえしていなかった。今月の家賃すら手元にないわけです。この辺、タイムスケジュールとしては感動の会が開かれた頃に同時進行で起きていたそうです。日雇いすらほぼやらず、ただ時間が過ぎるのをボーっと眺めていたとしか思えません。パチンコはしてましたね。

ここで、クズ氏再びB氏に泣きつきます。こないだの借金の一本化をお願いできないか、と。B氏は冷酷に言い放ちました。「親御さんの連帯保証がつくならな、おまえの信用はゼロだ」と。親御さんは言いました「盗人の連帯保証など出来るか」と。「借金玉の連帯保証でもいいぞ」とB氏は水を向けて来ましたが、僕もとてもいい笑顔で「絶対に嫌だね」と言いました。

クズ氏の問題はどこにあったのか

そういうわけで、クズ氏は債権を額面の10%で買い取ってくれる親切な先輩に連れていかれました。この辺の詳細はまぁいいですよね。債権を買ってくれる人(この方は闇金一郎君のお話にもスターシステムで出演していますのでそちらも併せてどうぞ)が黒塗りのオシャレな車でやってきて、お金を置いてクズ氏を連れていきました。もちろん借用書も持っていきました。親御さんの盗まれたお金も借用書にして借りているという体になりました。クズ氏、逮捕されなくてよかった。今も元気でやってるといいですね。

さて、このエピソードの本質はどこにあったのでしょうか。僕は今でもそれをよく考えます。クズ氏、助かる方法いっぱいありましたよね。手順が間違っていなければ、クズ氏は助かっているはずです。特に、B氏から提案された借金の一本化を拒んだのが不可解です。正直にサラ金から借り入れがあることを伝えて、一本化してもらえばよかったはずです。ちなみに本文では省略しましたが、サラ金からの借り入れも150万程度のお話で、人生が破綻するような額では到底ありません。

クズ氏は決して嫌われ者ではありませんでした。むしろ、子供の頃からずっと人気者といえる存在だったと思います。「あいつ呼ぼうぜ」となるやつでしたし、一文なしで飲みに来ても誰かが奢ってくれるタイプの男でした。僕も好感を持っていました。だから多方面からお金を借りることもできたのでしょう。

そして、あの感動の会で彼が流していた涙はなんだったんでしょう。

僕が思うに、あの涙は本物なんだと思います。みんなに許されて嬉しい、励まされて嬉しい。そしてサラ金の借金はバレたくない。その後どうなるかなんて全く考えられていないのです。人間は、短期的な欲望と長期的な欲望が矛盾することがよくあります。卑近な例で言えば、ダイエットしたいけどケーキも食べたい、みたいなやつですね。

これを適切に調整して、痩せるためにはケーキを食べない。そういう選択が出来る人間と、一切出来ない人間が存在することが、僕は最近わかってきました。たとえば、生活保護を受給しても、受給したお金の中から家賃を払えない人間なんてザラにいます。彼らは短期的欲望の奴隷と言えます。目の前にある快楽に飛びつき、その結果については思い至りません。実際、このクズ氏に「なんでサラ金のことあの場で言わなかったの?」と言ったら「いいにくかった」としか言えませんでした。「サラ金返しながら僕らの分の返済するの土台不可能だってことはわかってたよね?」と聞いたら、「なんとかなると思った」です。

普通の人は、長期的にドツボが発生する可能性を感じたら、短期的な欲望を振り切ることが出来ます。端的に言うと、財布に10万円あって、月末に12万円の払いがあったら「やばい」と感じますよね、2万円どっかから用立てなければならんと。しかし、このタイプの人間は「財布に10万円ある」がとりあえず世界のすべてなのです。中期、あるいは長期の視座が一切ない。短期的欲望に向かって前進するのです。短期と長期が一つながりに統合されていないのです。

これは、債権回収の一番のコツは「収入がある日のうちに回収する」であることとも一致します。給料日に入ったお金を必要に応じて割り振り出来る、という能力がある人間はある意味でエリートなのです。何故出来ないのかと叱り付けてもほとんど意味がありません。出来ないのです。それはもう、ただ純粋に出来ないのです

他人事とも言い切れない

さて、発達障害就労日記にこれを書いた理由は何かというとシンプルです。人生が追い詰められたり、つらいことが続いたりすると我々自身もこのクズ氏のような思考形態に陥ることがあります。皆さんも思い出してみてください、今それをそのようなしたら後から大変面倒なことになる、あるいは信用を失う。そういうことをしてしまったこと、ありませんか。もし、この「短期的な欲望に負けて長期的に失敗する」がゼロであれば、ダイエットに失敗する人間は存在しないはずです。

クズ氏と我々の差はつまるところ程度の問題でしかありません。油断は出来ない、僕自身本当にそう思っています。実際、ここまで大事にはならなかったけれど、本質としてクズ氏と同じようなムーヴをしてしまった経験は結構多くの人にあるのではないでしょうか。

ADHDは先延ばし癖が非常に強いです。また、衝動性も強いです。これは結果として「テンプレクズ」になる可能性が高いということを意味します。衝動的に浪費して、何もかもを先延ばししていれば破滅はあっという間に目の前にやってきます。「他人のお金に手を出す」人も多くの場合がこれなのではないかと思います。ADHDの人間が信用に足らない、ということはありません。有意に犯罪率が高い、のようなデータは存在しなかったはずです。しかし、自戒として我々は「クズ」になりやすと認識しておいて損はありません。

自分の行動における短期と長期がどれくらい噛み合っているか。自分は長期的な視座を持って行動出来ているか。もちろん、たまには深いことを考えずパーっと浪費したり明日を忘れて遊ぶのもいいことでしょう。それでも、その辺については常に恐怖感を感じておいて損はない。アキンドセンター様の文章を書きながらそんなことを思っていました。最終的に人生は長く続きます。長い人生を適切な長さの視座を持って、やっていきましょう。