発達障害就労日誌

色々あるけどまぁ生きていこうじゃないかというブログです。

雑談の技術について② レベル2、目的性と問題点の把握

雑談の目的、計り知れない利益

はい、そういうわけで前回に引き続いて「雑談の技術」第二段、レベル2以降のお話になります。今日の話の枕は「雑談の目的」です。というのも、雑談が生まれつき上手な人はそういうこと考えなくていいと思うんですよ、特に何も意識せず楽しく雑談して人間関係も上手くいく、それが理想です。しかし、残念ながら「雑談が苦手」となった場合、それを何とかするには目的意識が必要です。楽しくないことを目的もなくやるのは、大抵の人にとってとても難しいものですから。

そういうわけで、雑談の「目的」というのは、つまるところ「雑談をすることで利益を得る」ことになると思います。「こいつはコミュニケーション可能な人間だ」と相手に思わせることですし、あわよくば好意を勝ち取ることですね。「あの人は話しやすくて感じの良い人だ」と思ってる相手にはちょっと親切にしたくなりますし、一手間かけてやるか、という気持ちになりやすい。10分だけ、自分の時間を相手のために使ってやろうという気持ちを他者に起こさせることに成功すれば、どれだけのことが上手くいくか、たやすく想像がつくと思います。

仕事みたいな人間関係は、周りの人間がちょっと親切にしてくれるだけで全てのことが大変円滑に回るようになります。5人の同僚が一日10分だけ自分のために時間を費やしてくれるとしたら、それによって得られる利益は「計り知れない」と言っていいレベルになるでしょう。ちょっとした仕事のノウハウや慣習は、自力で習得するより教えてもらった方が遥かに楽です。そして、僕たちは「ちょっとした仕事のノウハウや慣習」がわからなくて全てを台無しにしてしまう人たちではないでしょうか。我々が犯してきた多くの失態におけるそれなりの比率が、「誰かが十分だけ親切にしてくれたら回避できた」ものだったのではないでしょうか。

syakkin-dama.hatenablog.com

こちらのエントリで書かせていただいた内容とも重なってくると思います。しかし、「雑談」はより本質的な部分です。というのも、前述のエントリで「見えない通貨」と表現した、「親切にしてもらったらお礼をする」というような人間関係における不可視の交換原則が、「そもそも機能するか」「決済は可能か」というような点を、人間は「雑談」から推し量っているところがあると思います。コミュニケーションのテストみたいなものですね。

雑談というコミュニケーションテストに不合格だった場合、人間は往々にして交換をしてくれなくなります。ちょっとした親切を与えてくれなくなり、些細な(しかし時に重要な)情報を渡してくれなくなります。そういう状態を回避して、可能な限り得をしていこうじゃないか、そして上手いこと人間の中でやっていこうじゃないか、それが「雑談の目的」になります。いうなれば、コストを払って利益を得るそれだけのお話です。

また、「それでも他人に合わせた雑談はしたくない」という選択肢もアリだと思います。その場合は別の戦略性が必要になってくるのではないでしょうか。こちらの戦略は、例えば「人間関係の中で図抜けたパフォーマンスを発揮し続けて、自分とコミュニケーションをとる価値を認めさせ続ける」みたいな方法が代表例だと思います。自分のおかれた状況と特性に合わせて、適切な方法を選択していただければと思います。僕のブログは「たった一つの正しいやり方」を目指すものではありません。「こういうやり方はどうだろう?」という当事者からの提案です。ご参考になれば幸いです。

 

発達障害起因(っぽい気がする)の失敗要因を潰せ

ADHD-喋りすぎる、止まらない

 これは僕の例です。僕は、長らく雑談を「自分の喋り芸で他人を傾聴させれば勝ちのゲーム」だと思い込んでました。そのために「上手に喋るための本」とか「スピーチの技術」みたいな自己啓発書を読み漁りました。「どうやら努力の方向性が完全に間違ってるっぽい」と気づいたのはわりと最近のことです。

 で、「会話をターン制として認識してみよう」とか、「相手と自分の喋る量を等分になるよう調整を試みてみよう」とか色々やってきました。結果からいうと、これらの試みは全て失敗しました。会話は単純なターン制と認識するには複雑過ぎますし、発話の量の調整も会話しながら意識するにはタスクとしての負荷が高すぎる。前回のエントリでご紹介した「レベル1」ぐらいが、僕が会話のために自分に課せる負荷の最大値でした。これ以上はどう考えても無理だ、レベル1だってぶっちゃけしんどい。

そこで、このような意識改革を行いました。「雑談というのは、最小限の発話で最大限相手の発話を引き出したら勝ちのゲームである」という認識に切り替えたのです。要するに、自分の発話量は最小限に抑え込み、相手に「気持ちよく喋らせる」ことに特化する。この意識を持って雑談に臨み、工夫を繰り返すうちにかなり大きな変化が現れました。これまでは、「自分の発話を相手に聞かせる」という楽しさが会話のモチベーションでしたが、「相手に気持ちよく喋らせる」というのはいうなれば会話の主導権を相手に意識されないままに握るということです。これはこれでやってみると面白いのです。

「喋りすぎる、止まれない」という悩みはこの意識を持つだけで、かなりの変化が見込めます。相手の発話を引き出す細かいテクニックの前に、この意識を持つことを試みて欲しいです。目的のあるところに技術はついてきます。「聞き上手になろう」では意識として弱い、もう一歩踏み込んで「相手に喋らせる」まで意識を高めるのが大変おすすめです。かなり劇的に変化すると思います。

 

ASD-共感力の弱さ、形式的同意の下手さ

 前回のエントリで「不同意」は雑談においてあまり得策ではない、というお話をしました。「今日は良い天気ですね」という発話に対して「暑いです」と返すのは、相手のポジティブな「良い天気」という発話に対して否定を加えるということで、あまり感じのよい対話にはならないのです。

しかし、これは僕にも拭いがたくある性向です。相手の発話に共感できないと、「NO」を突きつけたくなってしまう。そして僕は世界の多くのものに共感できない偏狭な人間なのです。「わかるわかるー」とか「すごーい」みたいなことを言えないのです。おそらくここを読んでいる人もこういう応答、大嫌いでしょう。しかし、皆さんもお察しのとおり、あれはコミュニケーションとしてかなり正解です。

では、それが出来ない時にどうすればいいか、これはもうシンプルで「そうですねぇ」「確かに」「ありますねぇ」「ああーなるほど」などの共感的な相槌を機械的に発声して、とりあえず何でも「同意・共感」で受けるのをテンプレ化すればいいのです。「すごーい」って言えないなら、自分が発声しても違和感のない「同意・共感」の相槌をコレクションすればいい。これはコミュニケーションが得意な人を観察すると容易に採取できます。何故なら、彼らがやってることがまさにそれだからです。5個あれば十分です。

そして、人間というのは「とりあえず同意・共感が得られた」までが重要で、その先に否定が来てもわりと気づきません。何故なら、大抵の人間は相手の話なんかそんなに聞いてないからです。例えば「いい天気ですねぇ」ときたら「いやー、本当にいい天気ですね、クソ暑いです」と切り返せばいいわけです。これは実質的に不同意ですが、大抵の人は不同意と認知しません。形式的な同意と共感さえそこにあればそれでいいんです。

原理原則を考えれば、人が何かを発話したらそれに対するレスポンスが同意であれ不同意であれ、コミュニケーションは成立していると考えられるでしょう。しかし、多くの人間は同意・共感が形式的に得られたことをもってコミュニケーションが成立したと看做しています。そういうルールなら話は早い、そうすればいいだけです。ボールをキャッチするということは、とりあえず同意・共感の「身振り」を見せることだと認識してしまえばいい。雑談における応答は、とにかくYESから始める。その後にNOという内容が来るとしてもまずはとにかくYESで受ける。これだけで完全に十分です。

ボールが飛んできたら、YESと書かれたミットで受ける。それ以上のことは何も考える必要がありません。これで儀礼的な雑談の大半はしのげます。さぁ、ミットに大きくYESと書きましょう。雑談は所詮形式的な儀礼です、儀礼としての様式美さえ守っていればそれでいいのです。

人間のコミュニケーションプロトコルが「コミュニケーションが成立している」ではなく、「同意・共感が形式的に成立した」という原理の下に成り立っている点さえ把握できれば全く問題ありません。これは本当に解決するのでやってみてください。NOで受けたら揉め事になったことが、実質的に同じ内容を発話していてもとりあえずYESで受けるというだけで全く問題なくなるのが観察できると思います。

 

余談、「とりあえずYESで受ける」を利用したテクニック

 ちなみにですが、この「とりあえずYESで受ける」は女性(と一部の男性)に関してちょっと難しさがある点は否定できません。というのも、この「とりあえずYESで受ける」を利用して、女性にゴリゴリ迫っていくタイプの男がわりといるからです。男女を問わず自分の要求をネジ通す時の基本テクニックとさえ言えると思います。

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A「Bさん、イタリアン好き?」

B「イタリアンは大好きです」

A「そっか、麻布に美味しいイタリアンのお店があるんだけど、ラム肉は食べれる?」

B「食べられます、美味しいですよね」

A「そっか、じゃあ7月の最初の土曜日は彼氏とどっか行ったりするの?」

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女性の皆さん大体覚えがありますよね。「殺すぞ」って思ってる人もいると思います。いやぁ、こうして文章書いてみると本当に「殺すぞ」って感じしますね。僕はモテないのであまり縁がなかったのですが、やられたら相当ムカつくだろうなと思います。

これは巧妙に「土曜の夜にイタリアンを一緒に食べに行く」に向かって会話を誘導してるわけです。「イタリアンが好きか嫌いか」という質問にはイエスと答えるしか普通はありません。しかし、この時点でドアに足がねじこまれているわけです。

で、最後の「土曜の夜は彼氏と」もテクニックです。本当に彼氏と予定があっても、やや立場が上の男性相手に「土曜の夜は彼氏と過ごします」とは伝えにくいですし、「彼氏はいません」とか「土曜の夜は会いません」みたいな答えを返すと、「じゃあ行こう」に向かって更に足を深くねじこまれます。しかも、「彼氏とどっかに行ったりするの?」という質問の形を取ることで、「土曜の夜は友人と会います」みたいな返答も封殺しようと試みているわけです。

女性は共感的なコミュニケーションを重視する傾向が、一般に男性より高い気がします。自然、「とりあえず同意・共感で受ける」という形式的なマナーの束縛が強い人が多い。それを利用したテクニックなんですね。しかも、普段「共感と同意を返す」のテンプレでコミュニケーションをとっている人ほど、咄嗟に「共感と同意を返さない」という選択肢が取りにくい。雑談では滅多に必要にならない選択肢ですからね。普段やってないことはなかなか出来ないわけです。

でも、今この文章を読んで考えるとどこで「否定・不同意」を返せばいいのか、しかも角が立たないのかって大体イメージ出来ますよね。グイグイ来る男をひっぺがすテク、覚えておいて損はないと思います。ちなみに、このテクニックは商売人も交渉でガンガン使いますし、僕も使います。「最近どう?忙しい?」って聞かれたら、「忙しい」以外に返答はない、というお話ですね。雑談で布石を打って、自分の目的に向かってゴリゴリ導くテクニックはあります。対策はしましょう。これは乗せられるとマジで大損こきます。「いやぁ、忙しいですけど~さんのお仕事ならなるべく頑張らせていただきますよ!」

 

今日はここまで

はい、思ったより今日もゴリゴリの内容になってしまいましたね。本当は実地での会話テクニック、「単語拾いアンサー」なんかも紹介しようと思ってたのですが、とりあえずこの辺にします。今日の内容も皆さんの役に立てば何よりです。

さて、最後にちょっと補足というか冒頭の内容の強調なのですが、僕のこのブログは「それをやれ」という強制でも、あるは「これがたった一つの正しいやり方だ」と主張するものでもありません。しかし、経験から一般化されたノウハウである以上、やはり僕の主観性が強く出ますし、どうしても押しは強くなってしまうと思います。

しかし、あくまでも「参考にしてください」という気持ちで書いています。ある程度距離をとって、「こういうのもアリかな?」くらいの目で見ていただけると大変幸いです。今後ともよろしくやっていきましょう。