発達障害就労日誌

色々あるけどまぁ生きていこうじゃないかというブログです。

鯨フェス2017に行ってきました

呼ばれました

唐突に某社からお呼びがかかり「鯨フェスってイベントがあって、希少な尾の身とかもめっちゃ食えるから食ってよ。そんで、好きなように好きなこと書いて」ということになりました。もちろんギャラも出ております。

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https://www.facebook.com/kujirafes2017/

大変フリーダムな依頼で、僕としては「マジで何の指示も受けてないんだよ」としか言いようがないのですが、とりあえず「依頼があり仕事として行った」というのは明示しておく必要があり、このような書き出しになりました。

つまり、僕のこの文章には誰かの政治的な意図が含まれている可能性が全否定はできないということです。この世の情報は大体そういうものですが、まぁそういうわけで好きなこと書きます。マジで何の指示もされていない(証明できない事実)ので、怒られが発生した時のことは深く考えないことにしましょう。

それで、まずですけど。すごく良いイベントでした。大量の鯨肉と気合いの入った料理が並び、とりあえず「僕は鯨について食材としても無知だった」という感想があります。鯨、奥が深い。あと、写真がひどいのは許せ、とにかくセンスがないんだ。近いうちになんとかします。

 

政治的なお話

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で、まぁ鯨といえばこういう要素があるわけです。僕はこれに関して基本姿勢として「他人のメシにケチをつけるほど野蛮なことはない」という考え方を持っています。韓国や中国で犬を食材として扱うことにケチをつける人も結構みかけますが、僕はそういうの大嫌いです。気合いの入った文化相対主義者なので。あんたが嫌うのは自由、でも他人のメシにケチはつけんな。

僕は犬も鯨もうまければ食います。うまいか不味いか以外にあんまり興味がありません。もちろん、個人的な思い入れや信仰の問題で「食わない」という人を批判する気もありませんが、僕はどんな食材もとりあえず食うがモットーです。犬もわりとイケます。

「おまえは犬が可愛いと思わないのか」みたいな怒りはちょっと僕は理解できなくて、犬可愛いですよね。その上美味しい。これが両立するのが人間というもので、ミニブタだってニワトリだって普通に可愛いですよ。牛なんかめっちゃ懐っこいです。食ってよし愛でてよしというのは人間の本質で、別段なんの問題もないんじゃないですかね。馬だって可愛いけどうまいし。羊はちょっと無機質な殺人機械みたいな雰囲気があるので、成獣になるとあまり可愛いとは言えない気もしますが。

もちろん、生態保全や絶滅回避の意図で「鯨を獲らない」というのは一理あると思いますし、それは個体数なんかと相談してやっていけばいいと思うんですけど、基本的には鯨もうまいなら食えばいい以外に感想がありません。

この辺、参考資料としていただいた(どうしてもサムネイルにならない)

Amazon CAPTCHA

 こちらの「おクジラ様」(佐々木芽生著)という書籍に詳しいことが書いてあって、まぁ「そんな感じだよね」ってところなんですが、まぁ世の中厳しい。他人を尊重することは難しく、鯨をある種の神体として崇めるみなさんとの和解は難しそうです。

 

鯨はうまいのか、まずいのか

で、まぁ僕として問題はここなんですよ。で、正直に言いますと僕は鯨に食材としてあまりポジティブな印象は持っていませんでした。「まぁ、独特の風味のある肉だよね。水っぽくてクセがある。脂のサシの入った尾の身は脂の融点が低いだけあってそれなりの味だけど、やっぱクセはあるし別にそんな必死になって食うほどのモンではない」という感想でした。僕も結構興味はあるほうなので、そこそこ鯨は「見かけたら食う」くらいのことをしてきたのですが、その結果としてこれくらいの感想の人が多いのではないでしょうか。

実際、鯨がうまいのか不味いのかは意見が分かれます。捕鯨論争になると、この論点で人間が罵り合っているのをよく見かけます。で、味覚というのは土着的なものでもありますし、経験にも左右されますから「まぁ好きな人もいるんだろうなぁ」程度のところで僕は納得していました。しかし、正直鯨フェスの肉を食べて驚きました。

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これはフェスで展示されていたイワシ鯨の尾肉の端切れで、市場でもそうそう見かけない最高レベルの品質のものですが、このレベルの鯨肉には僕が「鯨特有のクセ」だと認識していた風味が存在しませんでした。脂は口の中でとろりとほどけ、獣肉とも魚肉ともつかない滑らかな口当たりのあと、花開くようにうまみが広がります。これは文句なしにうまいです。おそらく、マグロと馬刺しが問題ない人なら誰が食ってもうまいです。

肉の密度やモッチリとした歯ざわりは馬肉に劣りますが、代わりに口の中でほどけていく滑らかさがあります。そのうえ、とろける脂のうまさが乗っかってくる。もちろん、水分の多さに好みは分かれるかもしれませんが、客観的に見て「うまい肉」です。醤油つけてもいいですが、もう一工夫の余地があり塩ベースになんらかの風味を載せてやることで更に旨い可能性があります。また、フェスでは出汁醤油を置いていましたがあれもひとつの工夫なのかもしれません。(確かに合っていた)味のベクトルが「淡さ」にも振れていて、初鰹を好む日本人の味覚にハマる味です。

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「尾の身は鯨の中でも希少部位、うまいのは当たり前」と思うかもしれません。でも、この赤肉のローストは更に驚きでした。正直、「鯨は火を入れるとスカスカになって血なまぐさくてちょっと」という風に僕は考えていたのですが、このローストはその先入観を完全に裏切る味でした。

まず、臭みがない。その上、特有のうまみが非常に強くあり、火が入ることにより活性化している気がします。「スカスカ」という問題も、火入れが巧みなこともあり見事に解消されている。火の入った部分の噛みごたえとレアの部分の肉質が同時に口に入るのがとても良い。脂の不足はオイルベースのソースが見事に補っています。僕の嗜好が赤味肉に振れたのもありますが、僕はフェスに出た料理でもこの一品が一番うまかったです。つまり、質の良い鯨は廉価な赤肉の部分でも十二分にうまいんですね。鯨はうまい。これがまず事実です。

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これは尾の身の中でも1級、最上級部位ですが流石にすごいうまさです。やばい。初めてここまで品質の高いものを食いましたが、ちょっとよくわからなかったのであと2キロ食いたいです。赤肉もあと2キロ欲しい。くれ。なんでもキロ単位で食わなきゃわからないんだ。

 

鯨はまずい

さて、では「鯨なんて不味い、わざわざ食う価値なし」と主張されていた方はいわゆる舌バカで、イデオロギーで味覚がダメになった皆さんだったんでしょうか。僕は違うと思います。多くの「鯨は不味い」論者は真実を語っているでしょう。

というのも、前段落の最後の尾の身の画像をよく見てください。ドリップがすごいですよね。これ、加工工場から出荷された肉を開封してわずか1時間半ほど後の画像です。フェス開幕直後にはほとんどドリップしていなかった肉が、解凍が進むにつれ水浸しになっていました。

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これなんかも見ていただければわかりますとおり、鯨肉のドリップしやすさは半端じゃありません。その上、おそらくですが空気に触れるとものすごい速度で劣化が起きているようです。つまり、「味の落ちやすい肉」なんです。フェス序盤にカットされた肉を1枚キープして、帰りしなに食べましたが「鯨の風味」だとかつての僕が認識していたクセが早くも顔を出していました。保管を間違えば、「スカスカの臭い肉」に化けてしまうのはおそらく間違いないでしょう。

また、部位によってはカットしたてでも「クセ」が発生しているものがあり、おそらく加工段階でも劣化が始まっているのでしょう。本来、鯨肉は「鯨九十九日」といわれるくらい日持ちがするとされるものですが、それは「食べられる」という意味で、味覚的なMAXの美味しさは非常にたやすく失われてしまうのだと思います。

フェスの鯨肉は加工工場から冷凍パウチの状態で直送されてきた「これ以上良質なものはない」レベルのものです。しかし、現実に我々消費者が鯨肉にありつくときは、このパウチが更に小分けされトレーに並んでいます。これがどういうことかというと、「そりゃそうだよね」という話になります。僕も今後鯨を食う時はなるべく大きい塊で買い、冷凍にはかなり強いということなので食べきれない分は即冷凍しようと決めました。食べる側にリテラシーが必要です。パックの小分け肉は表面を焼きこむなどの工夫で美味しく食べられる可能性もあります。もしくはトリミングか。

おそらく、「鯨がうまい」と主張される方はある程度品質管理の行き届いた鯨肉を手に入れる環境があった、もしくは思い出補正で上ブレしている可能性が高いと思います。これは本当に難しい肉です。鯨を扱う飲食店の苦労は計り知れないものがあります。僕も最初の一口を食べたときは「これどこで仕入れられるんですか!」と叫んでしまいましたが、正直この肉を扱いきれるか自信はありません。

うまい鯨肉に出会った時は、そこに人間の計り知れない労力が、捕鯨船から皿に至るまでの「鯨を少しでも旨く食わせよう」という気持ちが込められていることを理解する必要がありそうです。

 

これからどうなっていくのか

はい、そういうわけで鯨の食肉としての性質はかなり「難しい」ことがわかりました。正直に言えば、二次流通三次流通、そして各ご家庭での保管を含めると問題は山積していると言えます。しかし、人間というのは工夫する生物ですし、鯨フェスにいらっしゃっていた生産や加工に携わる皆様の熱意もまた半端ではありません。

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写真がひどいのは許せ。(本当にすいません)例えばこれです。これは、ウェットエイジングを試みているんでしょう。その上、鯨肉の性質に合わせて低温で熟成しているようです。肉というのは一般に新鮮であればいいというものではなく「熟成」の工程を必要とします。それは鯨も例外ではない。しかし、鯨のような劣化の極めて早い肉は「劣化させずにうまみを出す」というのが大変難しい作業になります。

生産者の「やってやろうじゃねえか」の結晶がこの商品なのでしょう。すごい熱意です。「凍温」熟成というのは聞き覚えがなく、色々やったんだろうなぁ…という気持ちになります。(どういう原理なんだろう、今度この商品探して食ってみよう)

真空パックであれば空気と触れることによる劣化もかなりの部分が補えますし、熟成が可能になるなら僕がフェスで食べた「最高に新鮮な鯨肉」より更にうまいものが出現してくる可能性もあります。人間はやっていく。うまいのまずいの手も動かさず講釈をたれている僕は頭が下がるばかりです。

こういった加工の手間は当然コストフルです。「うまい鯨肉」を食うには「価値に見合う金を出すぞ!バッチ来いや!」という消費者の気迫が必要です。生産者のやっていく気持ちと消費者のやっていく気持ちがぶつかった場所に最高の商品が生まれていく。鯨フェスも当然そういう試みのひとつなのだと思います。

やっていって欲しいという気持ちになりました。もちろん、商品開発や技術開発は試行錯誤の繰り返しです。一手で全てが解決することなどありません、今日より明日、明日より明後日、よくなっていくでしょう。ところで会場で「私は鯨のクセを完全に除去することに成功したぞ」と吼えている加工業者の社長さん?を見かけましたが、あまりに人垣に囲まれていたので「それ詳しく」と言えませんでした。非常に興味がありますので、もしこのブログをご覧になっていたら詳しく教えてください。

 

調理と加工食品

さて、ここまで鯨の食肉としての性質ばかりに言及してきましたが、それだけでは片手落ちです。流通が現在よりも未発達だった時代から鯨は食べられ続けています。そこには、調理や加工といった技術が欠かせなかったでしょう。鯨の「肉」だけではありません、ヒレやスジ、内臓といった部位も当然存在します。

この辺は僕が講釈をたれるよりちょっと調べていただければわかるのですが、「全部食うぞ」という人間の気迫が感じられるエリアです。

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写真がひどいのは許せ。これはどちらも感動情報です。1枚目は鯨の煮付け、2枚目はベーコンですがどちらも僕が過去に食ったものとは桁外れに旨かったです。煮付けはゼラチンの部位と赤身の部位が入り混じるところを的確に用いており、ゼラチン質のトロリとしたうまさと赤味のクシャっとほどける食感が補い合って最高の味でした。ベーコンはね…僕正直鯨ベーコンって好きじゃなかったんですよ。あのクセが。でも、このベーコン臭みはゼロでうまみの塊でした。やばい。

「パサつく赤身」を補うのは尾の身の脂だけではなく、鯨に豊富に含まれるゼラチン質だということがわかります。この辺になると脳がバカになっていたので「うまい」以外の記憶があまり残ってないのですが、超うまかった。

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この辺も当然のうまさなんですが、スジポンが特筆すべき味でした。すげーうまい。これ発注しようと思ってます。加工食品というのは保存性とうまさの両立という人類のやる気ポイントで、まさしく文化の極地なんですがかなりハイレベルです。鯨の皮の加工食品も「表面の黒いところは鯨の皮です」という説明とともに供され、なるほど全部食うんだなぁという感動があります。

これが文化じゃなくてなんなんだよ、という気持ちにはなりますね。胸を張って言えるうまいめしです。大変良い。皆さん、生の鯨肉の方に関心が寄りがちかもしれませんが、安定してうまいのはむしろ加工食品です。食ってみましょう。ただ、これも僕は「不味い」ものを食った記憶が正直いってありますので、かなり品質差はあるんだと思います。ベーコンとかね…。でも、うまいのは明確にうまいのでチャレンジの価値おおいにあります。どんな食品にも品質のばらつきはありますしね。

 

鯨を食うのか

食います。が僕の答えです。これだけのポテンシャルがあるなら「食わない」という選択はちょっとありえません。正直、僕の鯨肉への評価は多くの部分が無知と経験不足によるものでした。ただ、食べ方は考えます。適当に買って適当に食うとヒドイことになる可能性はかなりある肉です。また、調理も何も考えずにやると結構辛いことになりがちかもしれません。それなりの難度はあります。

現在は鯨の赤肉に大変強い興味があります。高温の油で揚げ焼きにしてやって、岩塩ゴリっとやったやつを大きめにカットしてかぶりつきたい。合う香辛料も、多分胡椒だとちょっと強いと思うんですよね。ワサビも負けると思います、脂もないし。となると、辛子あたりがいいのではないか。ディルなども試してみる価値があるかもしれない、もしかしたらタイムやローズマリーの香りなんかも合うかもしれませんね。魚肉と獣肉の中間という印象なので、大変に面白いです。

あとは、いわゆるオバなどのゼラチン部位ですね。あの辺をうまく組み合わせることで、かなり味覚が広がる可能性があります。煮付けはまさにそれを利用した調理でしたし、まだまだやれることはあるはずです。というわけで、食っていきましょうという結論になります。

大変勉強になりました。本当にありがとうございました。

食っていきましょう。

 

追伸 「人が写りこむとちょっとまずいかもしれない」というあれで、鯨フェスの賑わいを表現しきれていませんが、端的にいうと「戦場」でした。そこかしこから「うめぇ」の声が上がり、料理を確保するのに根性が必要なレベルで人間ががっついておりました。僕もですけど、皆さん「うまい」と感じた瞬間に何がが切れてましたよね。無理もないです。僕もあんなうまいと思わなかった。

正直、刺身とか竜田揚げとか「まぁ、その調理ならね…」というようなものが出ることを想定していただけに衝撃で、危うく「うまい」以外の感想を置き忘れるところだった。入場規制もかかってた。

最高のイベントなので次回開催については知らないんですが、また呼んで欲しいです。また呼んでください。また呼んでください。