発達障害就労日誌

色々あるけどまぁ生きていこうじゃないかというブログです。

弊社のFAXが混み合っておりまして-社会と茶道の話

FAXの送信を忘れていました

今日は疲れたのでタラっとした話です。

金玉さん、今日もお仕事だったんですよ。そりゃもうモリモリと働いていたわけです。それでですね、他社さんから「アレのデータFAXで流してくれや」と言われてですね、「わかり、ダイレクトで流すんでよろ」みたいに返したんですけど、まぁやっぱり残念な人なので綺麗さっぱり忘れて仕事してまして。その後

「すいません、株式会社~の~ですが、借金玉さんご在席ですか?」

という電話が鳴ったわけです。この時点でピキーンですよ。完璧に忘れとった。2時間放置しとった。そんな切迫した案件ってわけでもないので激おこというわけではないだろうけど、やっぱりお願いされてたことを放置してたわけで。「申し訳ございません」の「も」まで口に出たわけですよ。

「大変申し訳ございません。弊社のFAXが大変混み合っておりまして、現在まだデータが受信出来ておりません。お手数をおかけして申し訳ありませんが、再送をお願い出来ませんでしょうか

と来たもんですよ。それも僕に「申し訳ございません」を言わせない絶妙な速度で。いや、久々に思いましたね。「こいつデキる」と。そういうわけで。

「承知いたしました。ただちに再送いたしますので少々お待ちいただけますか、いや申し訳ありません」

と返したわけですよ。

「どうぞお気になさらず、現在FAXは空いておりますのでよろしくお願いいたします」

という切り返しが来て、本当に感服しきりでしたね。この絶妙な呼吸。見事に空気と相手の立場を読みきった振る舞い。責めることも批判することもしないまま、むしろ相手を気遣いながら伝えたいことを伝える技量。これが出来れば社会をやっていける、という感じがヒシヒシしましたね。僕の定型発達者エミュレターもまだまだです。

 

 お作法の社会

社会というのは、わりとお作法の世界だと思います。場所によって多少は違えど、大体は「正しいお作法」があり、同時に臨機応変にそれを崩していくことが求められます。明文化された形式に従うのは無難な選択肢ではありますが、それだけでは粋で乙とは認められません。おもてなしの精神にも通じるものがありますね。

僕は、人生を通じてこの概念が大変に嫌いでした。「空気読み天下一武道会かよ」などと毒づき、意図的に人生から遠ざけてきました。明文化出来ないものを教えようとする人間は全員詐欺師だ。マニュアル一冊にまとめろ。全部定型化しろ。再現性を100%にしろ。空気読みは定型発達者だけでやってろ、俺を巻き込むな。そのように考えて来ました。

しかし、前回書いたエントリのようにボッコボコに社会に打ちのめされた今になると、「まぁそういう概念はあるし、ある程度はエミュレーション出来るようになった方がいいのかな」くらいに考えが変化しつつあります。

実際、前段の「弊社のFAXが混み合っておりまして」のような例に遭遇すると、「これは使えた方が絶対に便利だ」と思わずにはいられません。すごいですよね、相手がFAXを送り忘れたことなんて百も承知で敢えて「弊社のFAXが混み合っておりまして」と一歩引く。そして、僕が「申し訳ございません」と文脈を無視していきなりの謝罪を入れたら、「現在弊社のFAXは空いております」というピリっと毒の効いた切り返しを入れてくる。

僕は完全にしてやられたわけです。相手の言葉を要約すると「FAX送り忘れてんじゃねえよボケ」という意味なのは明白です。僕の「申し訳ございません」も「もってまわった言い回ししてんじゃねえよ、俺が忘れただけだよクソ」という切り返しです。しかし、そのささやかな反撃も「現在FAXは空いている」という更なる切り返しの前にやりこめられてします。

こんなの好意を抱くしかないですよね。「結構なお手前でした」としか言いようがない。

 

社会茶道

そういうわけで、このエントリは社会と「空気読み」を茶道に例えてみようというエントリなんですが、茶道の極意といえば「利休七則」が有名です。ちょっと引用してみますね。

1. 茶は服のよきように点て
2. 炭は湯の沸くように置き
3. 花は野にあるように生け
4. 夏は涼しく冬暖かに
5. 刻限は早めに
6. 降らずとも傘の用意
7. 相客に心せよ

このような概念が極意なわけですね。「はぁ?基本じゃね?」と言われた利休は「これ全部パーフェクトに出来んなら俺がおまえの弟子になってやるよ」と応えたそうです。いや、うろ覚えなんで適当ですけど大体そういうニュアンスだったはず。

1.はあれですよね、「茶は客に合わせてちょうどよく点てろ」ということですよね。自分の好みでやるのではなく、相手の好みに合わせろと。

2.はざっくり言うと「基本的なことをキチっとやれ」ってことですよね。

3.はあれですか、「余計なことすんな、過不足なくやれ」みたいな意味かな?

4.はもうそのままですよね。快適にやれるように気を使えと。

5.は「時間に余裕を持て」みたいな意味ですかね。「焦んな」みたいなニュアンスもあるかもしれない。

6.は「不測の事態は起きるから備えろ」ですよね。

7.はもうこれはそのままですね。同席させたらヤバい人間いますからね。話の持ってきかた一つで人間が戦争を始めるのなんてよくあることで。これだけ「心せよ」という強い言葉が使われてるのも、「クッソヤバイからな?」という利休さんの気持ちがうかがえますね。昔から人間は悪かったことがよくわかります。

なるほどなー、と思うわけです。極めて高度に抽象化されているけれど、確かにこの概念を展開していけば大半の「お作法」が説明出来てしまう。「お作法」は一問一答にすると情報量が膨大になりすぎるので、「極意」と言われればこのように抽象化するしかないというのがわかりますね。

まぁ、利休は「めっちゃ空気が読める」というスキルで歴史に名を残したマンなので、参考に出来るかは微妙なとこですが、とにかくこういう技術が存在することがよくわかります。利休七則を更に抽象化すると「しっかりやれ、空気読め」とかになるんでしょうけど、ここまで抽象化するともう意味わかりませんね。(こういうこと言う人いますけど)

 いや、良くできてますよね。利休七則。空気読めないマンが社会に適応する際の極意にもそのまま応用できると思います。出来るかはともかくとして。(出来ません)

 

社会は無限に続く茶道

で、そういう話なんですよね。どういう話だろう。今日は疲れているのであまりゴリゴリ書きたくないんですけど。要するに、社会ってこういう感じなんですよ。空気読んで、相手の立場を把握して、共感して、最適解を都度出力していくしかない。Aが発生したらBを出力!みたいなシンプルな一問一答を無限に積み上げても、到底極意に到達しないわけです。(もちろん、頻出問題に関しては一問一答の積み上げもそれはそれで大事だけど)

で、やっぱり僕はこの能力が非常に低いわけですよ。今日これ書いてても思うんですけど、FAXの話僕は「感動」と言ってもいいくらいの衝撃を受けたんですけど、もしかしたらここを読んでる皆さんの感想は「これくらい誰でも出来るっしょ」なのかもしれない。あるいは、「え、これのどこに感動する要素あるの?」という反応もあるかもしれない。他人のことは本当にわかんないですからね。

文章を書いてても思うわけですよ、「これ伝わるかな?」って。怖いですよね、文章書くの。だって、僕とは違う自己を持った皆さんが読むわけですよ。僕が想定したとおりになんか絶対伝わらないし、「なんでそんな読み方するんだよ!」みたいなのも、当然発生するわけです。(めっちゃしてる)

「茶は服の良いように点てよ」っていうあれですよ。「お客さんのことを考えて文章書け」って話ですけど、全員にとって服の良い文章なんか書けるかよって話ですよね。同様に、社会をやっているときもそうですよね。相手を見て、共感して、立場を読んで、最適になるように受け答えをするわけですけど、それでもいつも上手くなんか行くわけない。

 

やっていく気持ち

まぁ、そういうわけで本日の結論としてはね、やっていきましょうと、そういうことになるわけです。頑張って美味しいお茶を点てて、頑張って炭をちゃんとお湯が沸くように並べる努力をしましょうと。まぁ、具体的に言うとちゃんとカバンの中身を整理して、名刺を補充して、スーツのズボンにプレスをかけて、明日に備えようと。営業アポをちゃんと確認して、カブっちゃいけない人がカブることのないようにしようと。

 で、明日もなるべく上司には共感的に接して、ちゃんとした受け答えを頑張ろうと思うわけですよ。僕はそれが下手だけど、やるしかねえわなぁと。社会茶道、本当に曖昧で理不尽でクソだと思いますが、あれを全部無視して突き進む方針で負けたわけだから、とりあえずやるしかねえですねと思うわけですよ。

そして、いつか僕も誰かがFAXを送り忘れたときに「申し訳ございません、弊社のFAXが混み合っておりまして」と電話をかけたいですね。社会茶道の達人には多分なれないけど、なんとか社会茶道を一生懸命やろうとしている風には見てもらえるかもしれないですし。

やっていきましょう。